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映画評:ゴダール『勝手にしやがれ』

この記事の最終更新日:2006年4月23日

(以下の映画評は2003年1月に別サイトで発表済みの文章をもとに作成しています。)

勝手にしやがれ
勝手にしやがれ ジャン・ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ他出演

アミューズソフトエンタテインメント 1999-05-27


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現代の若手監督による最先端の作品を観ているかのような錯覚が起こる映画だ。主役の若者の造型の深さが作品に永遠の斬新さを与えている。何を考えているか分からないような突発的な行動をおこす主人公の男は、きちっと性格が設定されていないようでいて、実は相当複雑な設定のもとにある。性格の複雑さが、観ている者に時代性を超えた未知の感覚を与え、それによって我々はこの作品を最先端のものと感じてしまう。

作品の進むペースが軽快で、テンポの良さが快感をもたらす。テンポは一定して普通の映画より速く進むが、主人公達の心のすれ違いなど物語が佳境に入るところで進度を落とし、それがさらに快感を増す。テンポがおちるところでは、たいてい二人の恋の会話が文学的、哲学的題材を含めながら展開されるのだが、それは高尚のようでいて、実は軽快なテンポが持続しており、作品からテンポのよさが消えることはない。

このテンポのよさは作品のプロットから引き出される。主人公の男は冒頭で殺人をおかしたので、ひたすら逃げ続ける運命にある。男は真っ直ぐ逃げないで、殺人者であることを忘れたいかのように滑稽な行動をとり続ける。これによってテンポの加速と、直線ではない微妙なゆらぎと変拍子をもつこの作品独特のテンポのよさがもたらされる。

この男は逃げ続けるのに、女に「恐怖から逃げないことが大事だ」と何回か繰り返し説く。男の外的制約による葛藤が、女の内的葛藤と重なって描かれる。男は女の葛藤の解決を助ける役割を担おうとし、女は男の葛藤の解決を助ける役割を担おうとする。メインとサブのプロットが連結されている。

恐怖心、羞恥心にとらわれることは自分の本当の願望を妨げる障壁となる。「警察につかまる」という男の外的恐怖を援助する女は、逃避行につきあううちに恐怖への耐性が芽生える。男の「怖くないのか」という言葉に対し「怖くても手遅れだわ」という答えを返す。作品の加速するテンポがラスト周辺において、女に恐怖を感じる余裕を剥奪したのだ。それによって女は恐怖にとらわれることなく、自分の願望を成就する存在へと変身する。男の恐怖という二次的なものに関わっていたからこそ、女が先に変身できたと考えられる。

変身した女は、自分が本当は男と一緒にいたくないことに気づく。何よりフランスから脱出しても二人の逃避行は続くのだ。男は恐怖を解決する気がなくごまかしながら逃げることしかしないのだから、恐怖への耐性ができた女にとって男は魅力ないものとうつる。

警察へ連絡したという女の裏切りを聞いて男は、自分のことを話してばかりで、分かり合おうとする気が二人ともなかったのだと落胆する。しかし、これは女の裏切りとも、二人の心のすれ違いの結果とも思えない。男は女の恐怖心という内的葛藤を解決する糸口「怖くても手遅れだわ」という感覚を与えた、それによって女は男に依存せず自分で生きる強さを獲得した。女は返礼として、男に女に依存せずとも恐怖にうちかつ強さを与えようとしたのだ、警察と素直に向き合えと。恋愛という場所で恐怖をまぎらわそうとしていた二人は、ラストで恐怖を解決する方法をお互いに提示できたのだ。

ラストで男は警察という恐怖に立ち向かおうとせずまだ逃げようとする。スロウの映像が男の滑稽さを描き出す。撃たれた男は「最低だ」という。女は「最低って何のこと」と気にとめない。自由のようでいて恐怖から逃げつづけた男が最低であり、女は恐怖なしに真に自由に生きていく方法を見出したのだから。

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