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映画評:トリアー『ドッグヴィル』

この記事の最終更新日:2006年7月9日

(以下の映画評は2005年に別サイトで発表済みの文章をもとに作成しています)


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この監督の前作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』はヒットしたけど、映画好きの友達からは、ラストのストーリー展開など酷評されていた。『ドッグウィル』はカンヌ映画祭で賞一つももらえなかったって。面白い作品には、賞総なめにする優等生タイプと、無冠だけど一般には人気が出るタイプの2つがあり、後者は内容がとんがっていて斬新だから、見ておく価値大。

最初から度肝を抜かれた。前衛演劇のようなセット。黒地のスタジオに、白い線を引っ張っているだけの村セット。白線で囲まれている領域が家で、家具は椅子やベッドだけ。後は外に木と自動車があるだけ。これは最初だけで、後半から他の映画と同じようなリアリズムセットになるかと思っていたけど、3時間この演劇セットで通しやがった。

ニコール・キッドマンがやたらめったらきれい。ニコール・キッドマン見ているだけで幸せ。アート寄りの作品にどんどん出ているニコール・キッドマンだけど、顔は最高にハリウッドスターの超美形。脚本がつまらなくてもニコール・キッドマンの顔見ているだけで幸せ現象を起こしてしまうのではと、途中まで心配だったけど、杞憂に終わった。

村の外からやってきたニコールは、村中の男の欲望の対象になり、セクハラされ放題。視聴者のハリウッド型スターに対する欲望を監督に風刺されたようで痛快。「あんなきれいな人と親しくなりたいな」という想いをこれでもかとえげつなくセクハラとして現実化させる監督は鬼だ。セクハラを受けているのに、相手の妻からはあなたが誘ったんでしょと責められ、村中の女からも嫌われるニコール。美人として生きていく哀しみをここまで残虐に、皮肉をもって映像化した作品は他にない。

監督はほんと性格が悪いと思う。東野圭吾や綿矢りさ系の「俺も相当暗いけど、こんな陰湿な奴映画に出して大丈夫か」と思う陰湿な物語展開が続き、ラストがまた衝撃。

このラストは大どんでん返しの部類に入るだろう。普通は、物語中の謎がとけたり、前提がひっくりかえることを大どんでん返しというのだが、この作品は製作者の発想が大どんでん返しだった。「こんなエンディングありかよ」という、視聴者の想定範囲外の悲劇的終末。残虐なんだけど、「え、これでおわっちゃうんだ」と笑うしかない。ま、これじゃカンヌで賞一つももらえなくて当然と思えるとんがった結末を見るためだけにも3時間見ておいた方がいい。

バッドエンドなんだけど、後味は決して悪くない、そ視聴者がそう思うように製作者はコントロールしてるんだけど。

映画の定義、思いこみに対して挑戦する姿勢が気に入った。この監督は次も見続けようと思う。アーティスティックなんだけど、ビョークとかニコール・キッドマンとか有名人主演にしたり、商業的にも受けてるところが批評家系の気に触るのかもしれないけど、エンターテインメントとアートの境界で新しいもの創ろうと努力している変人。鬼才という言葉がぴったり。

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