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(以下の映画評は2005年に別サイトで発表済みの文章をもとに作成しています)
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2003年カンヌ映画祭は『ドッグヴィル』が最大の衝撃作として話題になりながら、無冠の帝王となりました。多分『ドッグヴィル』とよく似ていつつ、実は正反対の作り方の映画が大賞受賞してるんだろうな、どんな映画か観てみたいと思っていました。
『エレファント』は1999年に起きたコロンバイン高校の銃乱射事件を元に作成された映画です。カンヌ映画祭史上初の最高賞パルムドールと監督賞の同時受賞作です。銃乱射事件と聞いて、もしや『ドッグヴィル』のライバルはこの作品だったのではと思いました。
『ドッグヴィル』にも銃乱射場面があります。そのシーンを観ていた時、自然と思い出したのはコロンバイン高校で起きた事件です。若者による凶悪事件が続発しつつ、同時多発テロまで起きて、メディア作品の暴力表現が問題にされてきました。人が死ぬ過激なシーンを多数広めてきた映画界は、社会的事件を前に、答えというか考えを作品化して示す必要がありました。
『ドッグヴィル』も暴力に対するある種の回答ですが、良識ある批評家連中の一部には内容が過激すぎて、批判を免れないと思います。人間の一番暗くおぞましい面をえぐり出すように描いた『ドッグヴィル』を無冠の帝王に追いやったのは、この作品。そう思いながら、カンヌの審査員の気持ちでDVDを見始めます。
最初は淡々としたアメリカ高校生の日常。何のドラマも起きません。画面は終始ロングスパン。移動する時メイン人物は画面の真ん中に来て、3Dアクションゲームのようになります。人物の移動と一緒にカメラもゆったり動きます。音は時々流れるクラシックくらいで、とても静かな映画です。
男の子がピアノでベートーヴェンを弾く横で、友達がノートパソコンをいじります。高校生ってもっとうるさいし、ピアノ弾く高校生なんてほんのちょっとだよ、これは芸術家である大人の監督が作りあげた世界だと思う私。一方で、高校生がうるさいなんてステレオタイプだし、ピアノ弾いてる高校生はたくさんいるという反論も思いつきます。そんなことを考えていたら、カメラがベートーヴェンを聞いている友達のパソコン画面を映し出し始めました。内容はシンプルな銃殺ゲーム。ピアノを弾き終わると少年は、パソコンを手に取って、銃の通販ホームページを開きます。ベートーヴェンから銃への展開、流れのうまさに唸りました。
平凡な日常を送っていた高校生が次々殺されていくんだけど、それも前半と同じ淡々とした映像で綴られます。悲鳴は遠くで聞こえ、カメラはゆっくり流れ、静寂に包まれた殺戮シーン。ハリウッドのサスペンス映画は視聴者の恐怖を煽る演出をしてきますが、この映画では一切わざとらしい大げさ演出なし。
最後にはうまいと唸るしかない。これと『ドッグヴィル』を同時に観ていたら、審査員はこっちを支持するだろうなと思わせる、王道の社会問題をテーマにした芸術作品。
日本では女児を殺害した事件が続発しましたが、その現実をそのまま物語にしても駄作になるわけで、この映画のようにアートとして魅せる技法が付け加わってこそ、作品が成立すると思いました。逆に言うと、映画作りのテクニックばかりが上手で、訴えてくるものが何もない脚本でも駄作となるわけで、映画作りの達人が、よくこういう重大な社会的テーマ扱ってくれたなと感謝。「映画などメディア作品が犯罪を助長する」という抗議は、表現の自由を狭めますが、映画側からこういう良質の解答が来ると、実に嬉しいです。満点。
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