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カフカ『城』

この記事の最終更新日:2006年5月30日
城フランツ カフカ Franz Kafka 前田 敬作

新潮社 1971-04

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カフカはチェコの小説家ですが、ユダヤ人の家庭に生まれ、ドイツ語で小説を書きました。カフカの作品にはユダヤの、旧約聖書的な世界観が見え隠れしています。カフカを読んだ時、最初はそれほどすばらしさ、斬新さを感じ取れなかったのですが、全集にあるカフカの日記を読んで、一気にカフカファンとなりました。実存主義的な自己の悩みを正確に書き綴るカフカの日記は、迂回し続ける彼の小説に比べて実に真剣で、深刻であり、カフカの小説を気に入らない人は、まず日記を手に取るとよいと思います。

さて、未完の大作、というか未完故に、決して城にたどりつけない故に素晴らしい『城』です。

不条理小説、実存、不安を描いたものとよく言われますが、中盤は恋愛小説です。官僚機構も辛辣に描かれています。何故識者は「城」の恋愛描写部を話題にしないのでしょうか。陳腐だからでしょうか?

主人公の測量士Kはフリーダ、オルガ、アマーリアなど様々な女と恋愛劇を繰り広げます。

決してたどりつけない城を、ユダヤ・キリスト教の唯一神と考えて読むと、途端に面白くなります。もちろんカフカはそうした暗示だけを意図して書いたわけではありませんが、到達不可能な城を神のメタファーだと考えると、普通に読むのとは別の面白さを味わえます。

神のメタファーは小説の中にしかけられた様々な文学装置の一つです。城は神ともとれるし、官僚機構ともとれます。謎、触れえないものの総体です。

城は神、測量士Kは形をつかめないはずの神を測ろうとする人間としてみます。
城の人間は天使であり、城のある村に住んでいる村人は神をおそれる人間です。アマーリアが所属するバルナパス一家は、村の人間から軽蔑されています。アマーリアが城の使者からの愛情をそっけなく断ったためです。問題を解決するため、バルナパスは城の使者になろうとします。

神の側からの人間への誘惑。その誘惑を断ったものへの人間からの裁き。

神が直接裁いたわけではありません。バルナパス一家は人間たちによって裁きを受けただけです。城、神自身がアマーリアを誘惑したわけでもありません。城の使者、神の使者が自分の意志でアマーリアを誘惑し、彼女に誘いを断られただけです。

神については一言も小説の中で出てこないから、この試みは勝手な誤読にすぎませんが、誤読しか有り得ないとどこかの批評家が言っています。

神と人間の対立の暗示。

神とは触れえないもの、たどりつけないもの、はかれないもの、何を考えているかわからないもの、征服したい対象、すなわち城。

神を迂回し続ける物語。

カフカの小説の訳者後書きや評論では、小説の恋愛描写部に触れず、実存哲学的解説ばかり加わります。カフカの小説はそんな小難しい小説ではなく、一人の男が複数の女性に愛されるよた話です。話の半分が滑稽な官僚機構の描写で、残りの半分が恋愛喜劇と言ってよい内容です。測量士の妻になろうとしたフリーダについて、小説の中ではたくさん言及されているのに、何故カフカ系評論では、フリーダや女たちについてほとんど触れられないのか、これは大問題です。まずは小説そのものにあたってほしいと思います。深刻な実存主義と解釈された結果切り捨てられた部分、恋愛の問題が、実はこの小説の主装置ではないでしょうか。







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