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リルケ『若き詩人への手紙』

この記事の最終更新日:2006年5月31日

若き詩人への手紙・若き女性への手紙
リルケ  高安国世訳 新潮文庫

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ドイツの詩人リルケが、文学を志す青年に向けて送った『若き詩人への手紙』は、哲学者、文学者、作家、詩人に関わらず、文筆家を目指す全ての人にとってバイブルとなる助言の書です。


『あなたは御自分の詩がいいかどうかをお尋ねになる。ほかの詩と比べてごらんになる、そしてどこかの編集部があなたの御詩作を返してきたからといって、自信をぐらつかせる。それは(私に忠言をお許し下さったわけですから)私がお願いしましょう、そんなことは一切おやめなさい。あなたは外へ眼を向けていらっしゃる、だが何よりも今、あなたのなさってはいけないことがそれなのです。誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。ただ一つの手段があるかぎりです。自らの内へおはいりなさい。あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい。もしもあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。』(p14)

リルケが主張していることは、アクセス数を気にしながらブログを書いたり、売上を気にしながらホームページ運営をすることは、詩作とは全く違うということです。アクセス数は結局ホームページ作成の助言にはならず、自信と将来の道をぐらつかせるもとにしかならないということです。

『もしあなたが力強い単純な一語、「私は書かなければならぬ」をもって、あの真剣な問いに答えることができるならば、そのときはあなたの生涯をこの必然に従って打ち立てて下さい。あなたの生涯は、どんなに無関係に無意味に見える寸秒に至るまで、すべてこの衝迫の表徴となり証明とならなければなりません。』(p15)


決意としての詩人の人生。このような決意を抱けないからこそ、今の自分も含めて、何をしたいのかもニートのごとくわからぬまま、ふらふらとさまよい歩いている人が多いのではないでしょうか。

『もしあなたの日常があなたに貧しく思われるならば、その日常を非難してはなりません、あなた御自身をこそ非難しなさい』(p15)

結局自分が詩人になれないのは、出版社や社会のせいでなく、自分自身の創造力のなさ、決意のなさにあるということ、自己の存在に責任の全てを負う姿勢がないかぎり、詩の創作は、言葉の決意化はなされないのでしょう。

詩人になる必然の道は、何度もの挑戦、決意に対する試しを受けます。

『しかしおそらくは、あなたは自らと、自らの孤独へのこの下降ののちにも、やはり詩人となることをあきらめねばならないことにもなるでしょう。(すでに申上げたように、詩人であってはならないためには、書かなくても生きられるということを感じるだけで十分です)』(p17)

書かなくても生きられる、これはごく当たり前のことのようにも思えますが、そう思ってしまえるということがすでに、自分自身が現在詩人でないということの証明となるのでしょう。詩人とは、社会的に詩人であるかということではなく、書く切迫を常に感じているかどうかにかかっているようです。

『そこでは時間で量るということは成り立ちません。年月は何の意味も持ちません。そして十年も無に等しいのです。およそ芸術家であることは、計量したり数えたりしないということです。(…)私はこれを日ごとに学んでいます、苦痛のもとに学んでいます、そしてそれに感謝しています。忍耐こそすべてです』(p24)

詩人であるためには、アクセス数とか読者の増加は必要ないと先に書きましたが、それはつまり、詩人は己の外にあるものによらず、ただ自己の存在のみによっているということの説明だけではなく、詩人とは計量によっては量られない存在なのだということの証明でもあったようです。アクセス数を量った途端、詩人は詩人であることをやめて、ビジネスマンになるようです。アクセス数を数えずに、ひたすら耐えること、学ぶこと、感謝すること。数えることは詩の営みとは無関係であること。これをつかんだ時、詩人は詩人となるのでしょう。


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