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解説:バトラー『ジェンダー・トラブル』

この記事の最終更新日:2006年5月26日

ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱
ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱ジュディス バトラー Judith Butler 竹村 和子

青土社 1999-03

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(以下の文章は筆者大学時代のゼミナールレジュメを元に作成しています)

<全体のまとめ>

序論
 男の主体は女という「他者」の存在を前提としている、女に主体はなく、男に絶えず従属する存在であるという、この権力過程は幻想でしかない。男と女の異性愛的マトリクスは存在論の見せかけを保っているが、実は物象化の産物である。女は言説の結果であり、女というものは存在していない。
 系譜学はアイデンティティー構築の過程を分析する。この本で行うことは、女というアイデンティティーの制約を受けないフェミニズムをうち立てることである。アイデンティテイーがどのように構築されるかを分析する。

1章〈セックス/ジェンダー/欲望の主体〉
フェミニズムは女を前提に議論している。解放されるべき女性像が主体として構築される。しかし、フーコーによれば、主体が構築されると、主体の正当化と、主体でないものの排除がおこる。つまり、フェミニズムが解放されるべき女性像を主体として永続化すると、それにそぐわないものにまた抑圧がおこるので、まず女という主体をどこにもおかないで、権力の批判を徹底的に行わなければならない。
 精神分析的フェミニズムは、ジェンダーは文化の構築物であるとするが、セックスは自然のものであるとみなす。この自然であるセックスを必然のものとみなし、文化であるジェンダーをセックスとは別物と考えるのは間違いである。両者に区別はない。等しく文化の構築物である。「セックスは生物学による宿命だ」とする文化の問題。
 法=権力は女という主体を作る時、(a)女が非女性的振る舞いをすることを否定する《法=禁止と規制の機能》とともに、(b)女というセックスがさも自然に存在しているかのような言説を構築し、女の設定の偶然性を隠蔽し、しかもその言説を拡大し再生産する《権力=産出機能》を発揮する。女というアイデンティティーはさも永続性があり、同一のものであるかのような錯覚を我々に植え付けるが、女というのは反復行為であり、行為の前に普遍の行為者は存在しない。よって、フェミニズムにおいて、女のアイデンティティーを前提にした議論は全て権力の問題を無批判に受け入れているのでまた権力過程を作ることになる。
 さらに、権力の外や前や向こうにセクシュアリティを作ることは不可能であるし、多様な性を作ることも無意味である。全ての試みは権力過程の中に回収されてしまう。ユートピアを描くことは不可能である。我々に残された道は、ジェンダー(セックス含む)の構築は避けられないのだから、それをいかに行うか、いかに認識するかということである。アイデンティティーを永続させることは放棄し、その時々の政治的実践に合わせ、アイデンティティーは一時作られ、すぐ捨てられる。社会構築の永続化という現象を混乱させ、ジェンダートラブルを増殖させることがふさわしい。

結論 パロディーから政治へ
アイデンティティーの政治は行為の背後に行為者を同定する。この行為者は普遍である。しかし、行為する人は、行為の中で作られるのである。(ex,ジェンダー=反復行為により女が作られる)。よって普遍の行為者を想定することは偽である。
 我々の課題は新しい普遍のアイデンティティーを構築すべきかどうかではないし、現在の行為を反復すべきかどうかではない。どのように反復すべきかというのが課題なのだ。反復は避けられず、永続化する傾向があるので、永続化による権力の強力な発動を避けつつ、現在の権力関係を無化にしてしまうような行為をかわるがわる反復するのが望ましい。


ジェンダートラブル序文(1999年版)(現代思想2001年12月号、青土社所収)の要約

・発行当時の最大の関心事
フェミニズムにみられるジェンダーの異性愛的な分け方への批判
新たな形態の階層秩序や排除を生み出してしまう危険を指摘

・ 本書の目的
ジェンダーの可能性の場を開くこと

・ レズビアンの実践はフェミニズム理論(女の聖化)を実証するものではない。

・ 非規範的な実践が、分析カテゴリーとしてジェンダーにどのような異議を唱えるのか?
支配的な異性愛の枠組の中では、人は男か女に分類され、それに疑問を投げかけることは、自分の感覚を失わせる。

・ 本書で述べたかったジェンダーとセクシュアリティの関係
重点は、性実践の形態がある種のジェンダーを生産するということの方にはない。規範的異性愛の状況下において、ジェンダーの管理が異性愛を強化している点が重要


ジェンダーのパフォーマティビティーについて

ジェンダーは内奥の本質として作用している。そのように人々に考えられている。そしてそれが現象を再生産している。ジェンダー化の本質を予測すると、外部の生産もみぬける。パフォーマティブなジェンダーは、個別の行為ではなく、反復や儀礼であって、身体という文脈の中で行為を自然化することで持続し効果をもつものだ。

上記への批判

内面的精神はないのか?全て行為なのか?
→精神世界の内面性を当然視することは重大な誤り。

ジェンダーの規範的な説明は、ジェンダーについてどちらが受容可能でどちらが嫌悪すべきものかという選択をせまり、それを永続化しうる。筆者はジェンダーの転覆でなく、新たな展開でなく、可能性の場を開くことのみを行っている。


ジェンダーの現実は実は幻想。変更も修正も可能。
ジェンダーという自然化された知識が専制的で暴力的な線引きを行うことを本書は示した。


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