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異邦人 | |
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カミュはフランス実存主義の作家であり、作家であり哲学者でもあるサルトルと歩みをともにしていましたが、途中から対立します。実存主義の作家は、カフカも、サルトルも、カミュも、小説とともに日記が優れています。生きることが芸術であり、覚悟である実存主義者は、毎日の生そのものが決断の連続であり、日記が実に刺激的です。カミュの日記としては、カミュの手帖 1935‐1959がおすすめです。
さて、カミュのデビュー作であり、代表作でもあり、20世紀中盤の歴史的傑作でもある『異邦人』についてです。
学生の頃より、何度か読もうとしていたのですが、序盤にまるでドラマがなく、つまらないので挫折し続けていました。ヘミングウェイ調の簡潔な、無駄が一切ない文体も個人的好みではありませんでした。「〜だ」「〜だった」という無機質な構文の連続よりも、複雑に入り組んだ知的構文の方が好みだったので、プルーストこそやはり文学の全盛期で、それ以降文学は後退してしまったかと嘆いていました。しかし、主人公ムルソーが己の結婚観を語る場面で、ムルソーの哲学およびカミュの小説世界に一気に引きこまれました。それ以降文体への違和感もなくなり、最後まで一気に読めるようになりました。
ムルソーは、ママンが死んだ翌日出会った女性に結婚しようと言われます。ムルソーは、自分は結婚したくない、結婚してもしなくても何も生活は変わらないだろう、君が結婚したいなら結婚する、別の女に結婚したいと言われたらその人と結婚するだろう、と何とも奇妙な御託を並べます。ムルソーは、結婚とかママンの死とか、常識を重んじる人間にとっては、重大で決定しにくいことが、まるで重要な問題でなないかのようです。
一見無反応で感情のない人間に見えますが、ムルソーは、大事でないと思ったことには反応しない、自己の強い人間です。これはかっこいいと思ったら、途端に共感できなかったムルソーに親しみがわき、小説を読むのが苦痛でなくなりました。
「今日、ママンが死んだ」という文章で始まる『異邦人』。ママン。そう、ムルソーの母親はママンでなくてはなりません。ママンのことをママンという日本語にした、訳者の感性に感服です。
小説のちょうど真ん中で、ムルソーはアラビア人を殺します。何が面白いのかよくつかめなかった物語が、そこから急にドラマチックなものになります。裁判、監獄……ムルソーは社会常識に反する変な人間だと小説の登場人物たちに理解/誤解されていきます。
序盤の物語進行、ムルソー的な虚無感が裁判にかけられます。ママンの面倒を自分でみず、養老院に入れていた、ママンが死んだのに無感動、ママンの死の翌日女と海水浴に行った、ママンの死の翌日喜劇映画を見ていた、女を買う友達と遊んでいた、アラビア人を挑発する手紙を書いていた、ママンの死の翌日女と寝て結婚することにした、アラビア人を殺した。ママンの死と日常の喜びがつながっている、常識的に見て奇妙な行動の連続です。判事の質問に対するムルソーの答えもひどく奇妙なものの連続です。社会は異質なムルソーを理解しようとしません。
しかし読者である私は、ムルソーの味方となっています。第二部は哲学とか文学とか関係なく、小説として、物語としてとても面白いです。
ママンの死で始まり、中盤アラビア人の死で物語が反転し、後半はママンの死の翌日アラビア人を殺したムルソーの奇怪さが批判され、最後には主人公が死ぬという、極度に計算された、死によって形成された古典的ドラマ作り。淡々とした序盤からは想像もできなかった、ギリシア古典悲劇のような構成です。
物語の最後、死刑を待つムルソーに司祭がやってきます。神を信じないムルソーは司祭に激しく文句を並べます。この葛藤=ドラマの描写がまた最高にうまいのです。ママンの死、殺人、主人公の死。きれいな三角形として物語がまとまりすぎていて、逆に奇妙に思えてきます。カフカの「城」の、いつまで経っても物語が進展しない小説としての不条理さからすると、うますぎて、逆の意味で不条理です。
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