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書評:クッツェー『夷狄を待ちながら』

この記事の最終更新日:2006年5月28日
夷狄を待ちながら
夷狄を待ちながらJ.M. クッツェー J.M. Coetzee 土岐 恒二
集英社 2003-12

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著者は南アフリカ出身の作家であり、2003年度ノーベル文学賞を受賞しています。英ブッカー賞も2回受賞しています。

当作はスピヴァクの論文でも取り上げられている、ポストコロニアル文学の代表的作品です。夷狄と、彼らを制服しようとする帝国の人間、双方をクッツェーは描きます。語り手の男は、辺境の街で民政官を勤める初老の男です。

語り手は不当な暴力を受ける夷狄をかばい、帝国から派遣されたジョル大佐らと対立します。語り手は夷狄の関係者として監禁され、拷問を受けますが、終始語り手は夷狄の側に立ち、帝国の非業を告発する姿勢を変えません。

白人作家であるクッツェーは、自分たちを加害者と捉え、アフリカ現地の人々に対して行なってきた不当な暴力を告発していきます。日本の多くの小説家たちは、戦争を小説化しますが、ヒロシマ、捕虜生活など、自分たちを被害者の立場においてしまいます。村上春樹も大江健三郎もかわりありません。

辛くても加害者の立場に身をおいて、自分たちの側が行なってきた暴力の限りを描けるか否かは、歴史認識、自己反省力、客観的判断力に寄るところが大きいです。日本の小説家に南アフリカの白人作家たちのような問題意識がいつ芽生えるのか、醸成を期待するばかりです。

南アフリカと日本では事情が違う、日本はアメリカに原爆を落とされた、ヨーロッパ諸国による植民地化の驚異にさらされていたという言い訳は通用しないでしょう。どこの国でも複雑な事情はあるものです。加害者の側で自分を描くと、罪の意識にさいなまされて自虐的になるというなら、この小説のように、加害者の組織に属しながら、侵略行為の不当性を認識して、強い姿勢で告発する立場に身をおくことをすすめます。


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