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ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』

この記事の最終更新日:2006年5月30日

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉
ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉J.W. ゲーテ Johann Wolfgang Goethe 山崎 章甫
岩波書店 2000-01

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シェイクスピアがイギリスの国民的作家だとすれば、ゲーテはドイツを代表する国民的作家です。マン、カフカ、ヘッセなどがいても、ドイツを代表する作家と言えば、ゲーテであり、ドイツを代表するが故に、ゲーテは世界的に親しまれているコスモポリタンな作家でもあります。世界的に影響を与えている文化人としてのゲーテは、怒濤の前期と円熟の後期に分かれていると一般的に考えられています。

前期においてゲーテは、シラーと並ぶに疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドラング)期の代表的作家であり、『若きヴェルテルの悩み』などが代表作です。疾風怒濤は、古典主義、啓蒙主義に対立する、理性に対して感情の優位を叫ぶ運動で、後のドイツロマン派の元となります。

ゲーテはワイマール宮廷に使える御用文学者でしたが、1786年、公務を投げ出してイタリア旅行に出かけます。イタリアでのルネッサンス芸術との接触および、『ギリシア芸術模倣論』や『古代美術史』を著したヴィンケルマンとの接触によって、ゲーテは新古典主義と呼ばれる時期に移動していきます。円熟の境地の代表作は『ファウスト』であり、この場で取り上げる『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』です。

『ヴィルヘルム・マイスター』は、ドイツ最初の教養小説の傑作と呼ばれています。ヘッセやマンら後代のドイツ作家は、ゲーテを模範として、教養小説を書き下ろします。社会遍歴を通して人間的成長を遂げる主人公を描く教養小説こそドイツ文学の伝統です。

教養小説においては、芸術家である主人公が、芸術について友と論議を交わすのが習いです。

『詩人は、自分の好む対象に完全にうちこみ、それと一体になって生きなくちゃならないんだ。詩人は、内面的に、もっとも貴重なものを天からさずかり、つねにふえてゆく宝を胸に抱いているものなのだ。したがって、外部から妨げられることなく、静かな浄福のうちにその宝物を育ててゆかなければならないのだ。そういう浄福は、金持がいくら金をつんでも作り出せるものではないのだ』(p125)

『詩人の内面には多くのものがあたえられているから、外のものはあまり必要としなかった。美しい感情や素晴らしい表象を、甘美な、対象にぴったりした言葉と旋律によって伝える才能は、昔から世のひとびとを魅了してきたし、才能をもつ本人にとってはそれが豊かな資産だった』(p127)

幾多の恋をしながら、劇団員のひとりとして遍歴の旅を続けるヴィルヘルムの修業時代。シェイクスピアに出会い感激し、『ハムレット』を演じる主人公は、偉大な詩人であるゲーテ自身の若年期に重なります。

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